2025年度に予定されている薬価引き下げ政策。この施策は、短期的には医療費削減という目に見える効果をもたらすかもしれません。しかし、コメント欄では現場で働く人々が阿鼻叫喚。薬剤師の友人も「まじやべえ」と言っています。それもそのはず、この施策の裏側には、私たちの命にも直結する深刻な課題が潜んでいるからです。本記事では、薬価引き下げがもたらす影響、さらに未来の医療や個人の健康を守るために必要な対策について思慮してみたいと思います。
薬価引き下げがもたらす影響
政府は2025年度、薬価を約2500億円引き下げる計画を掲げています。これにより国費ベースで約600億円もの医療費を抑える試みです。しかし、この試みの先には、想像以上に深刻な問題が待ち受けているかもしれません。
薬価引き下げはこれまでも繰り返し実施されてきました。当然ながら「薬価が下がる」ことと「製薬企業の利益が縮小する」ことは同義です。国内市場が収益性を失えば、企業は海外事業に注力せざるを得なくなります。
武田薬品工業が2019年にシャイアー(アイルランドのグローバル製薬会社)を買収したことやアステラス製薬の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の成功などが象徴的な出来事といえますが、実際に近年、国内主要製薬会社は研究開発や生産拠点を海外に移すなどグローバル経営を強化しています。
《国内主要製薬会社12社の海外売上高比率平均の推移》
2019年度(60.1%)
2020年度(62.1%)
2021年度(64.2%)
2023年度(武田薬品工業が89%、アステラス製薬が83%、エーザイが70%など)
企業が海外市場に注力する結果として、日本国内でジェネリック薬や必須薬など低利益の医薬品が手に入りにくくなることが危惧されます。せき止め薬や痰切り薬だけでなく、麻酔や喘息用の吸引ステロイドや抗がん剤やインスリンなどの供給がさらに滞ることは、患者の命に直結するリスクとなるでしょう。手術も出来ませんからね。
また、体力の乏しい中小企業においては、薬価引き下げによる倒産や吸収などに追い込まれるケースの増加が懸念されます。中小企業は革新的な治療法や新薬の開発に貢献してきましたが、収益悪化により研究開発に投資する余力を失い、市場から撤退したり技術や人材が海外流出し続ければ、日本の医薬品業界の国際競争力にも黄信号が灯るでしょう。
確かに、薬価引き下げは短期的には医療費を抑える効果があるかもしれません。しかし、薬不足や治療の遅れによる医療費の増大が将来的に現れ、その影響が私たちにのしかかる可能性も否定できません。というか全然あり得るでしょう。
健康寿命延伸に必要なこと
さて、ここで一度、薬不足という問題の枠を越え、健康寿命を延ばすために私たちができることを考えてみましょう。
健康寿命の延伸には、啓蒙(食生活の見直しや運動の促しなど)と、個人の意識の相乗効果が欠かせません。ですが敢えて言い切るなら、より重要なのは個人の意識です。どれだけ啓蒙や他者の促しがあっても、動くとか、節制するとか、決まった時間に寝起きするとか、アクションを起こすのは自分しかいませんし、自分を変えられるのは自分だけだからです。
日本は超高齢化社会に突入しており、全ての人が病院に頼り切る構造はそもそも持続可能ではありません。崩壊してきているからこその「薬価引き下げ」ですし、いま、物凄い速度であらゆるセクションの“救済措置”が消えています。
2025年からもっと薬が無くなくなるだけではないですよ。介護もどんどん受けられなくなります。私たちが向かっているのはお金があってもサービス提供者が居ない、まさに自衛の時代なのです。
そんな中で、身体に関しては、「治してもらう」という発想や「問題が起きたら対処する」という思考が最大のリスクファクターとなるでしょう。日本人には特に強く根付いていると思います。
社会としてはゲームオーバー。これはもう仕方ありません。それは置いておいて、個人的には一人ひとりの“事なかれ主義”“先送りマインド”に危機感を覚えます。
健康でなければ仕事もできませんし楽しいことも楽しめません。もはや健康にしか価値がないのです。大体みんな40くらいで一度ガタが来て、穴に落っこちて、その内一定数は“付き合っていく”系の疾患を患って、それからこういうことを言います。
けれどそもそも、その穴に一度落ちる必要がありません。身体に関しては中庸が一番、バランスが一番で、良くも悪くも“積み上げ”の結果だということも、不調や違和感を無視すべきでないことも、健康は外注できないことも、みんな知っていますからね。
健康を保ち、自由に生きる(そして結果的に未来の日本を守る)ために不調を放置せず芽を摘んでいきましょう。