腰痛手術の「闇」について

「腰が痛いから手術を受けたけど一向に改善しない」「薬を飲んでも良くならない」―慢性的な腰痛に悩む方のなかには、こうした声が非常に多くみられます。

日本でもっとも一般的と言える整形外科受診後に、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と診断され、治療を受けても腰の痛みやしびれが長引くケースは決して珍しくありません。

石川県・小松市の「加茂整形外科医院」では全国から「何をやっても治らない」と言われた腰痛患者が詰めかけるそうですが、加茂院長によれば、誤診率はほぼ100%に近いといいます。

多くの場合は“極度の筋肉痛”=筋筋膜性疼痛症候群(MPS)が主原因であり、いわゆる“ヘルニアや狭窄症だから痛む”のではないことが多いのだとか。

医師に勧められると「手術しなくては」と思われる方も多いでしょう。医師は医学のプロですから、信頼をおくのは自然なことです。しかし、残念ながら、「手術したのに再発してしまった」「そもそも手術が必要だったのか疑問に思う」という声が少なくないのも事実。当院にもそういった方が来られます。

今回お伝えしたいのは、決してすべての手術が無駄だとか、医師がみな不誠実だという話ではありません。

ただ、腰痛手術に限らず本当に必要な手術かどうかを、“見極める”ことは自分や自分の大切な人の身を守るために大切ですし、腰痛や坐骨神経痛の文脈における手術の必要性は、じつはある程度、あらかじめ見極めることが可能です。不要な手術を避けることは出来ます。なので今回はその見極め方を解説します。

筋肉由来の痛みと器質的な損傷の痛み

腰痛の原因には大きく「筋肉の緊張(筋肉性の痛み)」と「神経や骨・椎間板などの器質的損傷」があり、それぞれ症状の出方が異なりますしかしながら、そもそもここの区別を曖昧にしたまま手術に至るケースは少なくありません。

「器質的損傷」が原因の痛みであれば、手術が必要になることもある。「筋肉由来」の痛みであれば、手術をしても仕方ない。運動療法や適切な生活指導で改善する可能性がある。基本的にはこのように捉えて頂いて問題ないです。

そしてこれらの見極めには、下記のようなチェックポイントがあります。

手術前の「見極めチェックポイント」

Q1. お風呂に入ると痛みやしびれは軽くなるか?

  • 軽くなる場合 → 筋肉由来の可能性が高い
    (温めることで筋肉が緩み、痛みやしびれが和らいでいる)
  • 軽くならない/むしろ強くなる場合 → 器質的な要因か、腰椎分離すべり症などの疑い
    (ヘルニアや骨の変形は、お湯で温めても引っ込んだり治ったりしない。分離症の場合は痛みやしびれが増悪する場合もある)

Q2. 姿勢を変えると症状が変化するか?

  • 症状に波がある(マシになったり強くなったり) → 筋肉や末梢神経の影響が考えられる
  • 常に同じ(24時間ずっとしびれているなど) → 中枢神経(脊髄レベル)の損傷も視野に。病院受診推奨。

Q3~Q6. 神経症状がどこまで出ているか?

  • 熱さ・冷たさの感覚がない/触覚が低下している/筋肉が萎縮している/排尿障害がある
    → これらは脊髄など中枢神経レベルの損傷が疑われる。特に排尿障害がある例は早急な病院受診を。
  • 上記のような明確な神経症状がない → 筋肉由来の痛みの可能性が高い

Q7. ストレッチで少しは楽になるか?

  • 楽になる → お風呂理論と同じく「筋肉の緊張」が関与している
  • 変化がない → 器質的損傷の可能性も検討はするが、単純に適していないストレッチ方法の場合もあるため何とも言えない

Q8. つま先立ちができるか?

  • できない(特に一方の足で立てない) → 神経が損傷されているおそれあり。すぐ受診を
  • できる → 筋力・神経支配がしっかりしている可能性が高い

左列(特に赤い項目)に該当する場合は‥

  • 左列(特に赤い項目)に該当する方 → すぐに病院の検査を受けましょう。中枢神経の損傷が疑われ、いわゆる“手術適応例”の可能性があります。もしかしたら痛みや痺れの誘因となっているかもしれませんし、神経の損傷は時間勝負です。
  • 該当しない方 → 手術をしてもその痛みやしびれは改善しにくいかもしれません。運動療法を勧めます。表では整体院推奨と書いていますが、別に方法は問いません。体系的なアプローチを受けられればなんでも良いです。

不要な手術が行われる背景について

1. 画像診断だけに頼った誤診

ヘルニアがあっても痛みやしびれが出ない場合はありますし、筋肉や姿勢・動作のクセ、精神的ストレスなどが痛みを引き起こしている可能性もあります。冒頭で引用した“誤診”の中には、こういった、画像診断ではわからない要素を無視している場合が含まれると思います。

MRIやCTでヘルニアが写っていたから痛みの原因はこれだろう、という決めつけは危険です。

2. 検査・問診の精度不足➡的外れな治療➡症状が長引く➡手術へ

①精度の低い検査・問診 (原因不明のまま)②的外れな治療 (原因が解消されない)③結果が出ない(むしろ悪化)④(3~6か月後)手術しましょう

今まで僕が見聞きした事例の中にはこのような流れがありました。実際には筋肉由来の痛みなのに腰の手術を受けて、結果、芳しくない、という状況です。

手術の前段階にあるリハビリなど何らかのアプローチが的を得ていないがために改善していないのであれば、必要なのは手術ではありません。セカンド(サード)オピニオン、もっと言えば「損切りする勇気」です。

基本的な考えを言います。まず、何度も(何年も)通っているのに一向に良くならない(あなたが改善を感じられない)アプローチは避けましょう。

腰痛や坐骨神経痛の軽減を目的とした運動やストレッチの効果(疼痛軽減効果)は、適している方法であればその場で感じられます。その積み重ねで「良くなる」のであり、効果を感じられないということはその方法が適していないということです。その延長上に改善の見込みはないかもしれません。

原因を捉えていない治療を受け続けて、結果が得られず、その末に手術適応とされる症状でもないのに手術というのも、論理が破綻しています。セカンドオピニオンを受けるなど、別の道を探ったほうが賢明でしょう。

3. 病院・医師側の事情

一部ではありますが、「論文実績や出世、病院の収益のため」に手術が乱発されるという事実も指摘されています。

いわゆる“手術ビジネス”の闇も存在するため、「医師が勧めてきたから安全」と鵜呑みにするのは危険です。もちろん誠実な医師もたくさんいますが、“切りたがる医師”がいることも頭の片隅に置いておくとよいでしょう。

手術しても再発するもう一つの理由

また、たとえ「手術適応例」と判断されても、術後に痛みやしびれがすべて消えるわけではありません。なぜなら、椎間板や骨などの器質的変化は「原因の一部」にすぎない場合があるからです。正直ココが見極めを難しくする部分ではありますが、器質的な変化と筋肉などの疼痛誘発因子は同時に成立します。

たとえば、日常動作や姿勢の問題が残ったままだと、また同じように背骨を歪ませる癖や筋肉を硬直させる習慣が続きます。すると「せっかく手術して一時的に調子が良くなったのに、痛みが再発した」ということになりかねないのです。この点も頭に置いておきましょう。

受け身では“不要な手術”の共犯者になりうる

「医師がそう言ったから……」「リハビリで効果がないならもう手術しかない?」「歳だから仕方ない」

といった受け身の考え方をしていると、結局は“その場しのぎ”しか得られず、最後は「手術するしかない」と追い込まれてしまうかもしれません。自分の身体を守れるのは自分だけですし、良い方向へ向かうためには嫌でも「自分の身体と向き合う態度」が不可欠です。

不要な手術の事例も調べれば山のように出てきますし、情報収集も含めて能動的に、主体的に、取り組んでいきましょう。

まとめ

  1. 手術を決める前に、痛みが筋肉由来なのか、本当に器質的損傷があるのかを見極める
  2. 画像所見だけを鵜呑みにせず、問診や動作・姿勢、エクササイズやストレッチの効果などで総合的に判断する
  3. 治療方法を選ぶ際は必ず「結果を出しているか」「施術者があなたの身体をしっかり分析しているか」をチェック
  4. 仮に手術をしても痛みが消えない、再発する可能性はある。手術だけで“すべて”が解決するわけではない

腰の痛みは実にさまざまな要因が複雑に絡み合い、時には「筋肉・関節・神経・姿勢・動作・精神的ストレス」など多角的な視点が必要になります。医師が医学のプロであっても、姿勢や動作分析のプロではない以上、一度の受診で「ヘルニア=手術」と短絡的に判断するのはリスクが高いということを、ぜひ知っておいてください。

あなたや大切な方が「不要な手術」を回避し、本当に適切な治療を受けられるよう、少しでもお役に立てれば幸いです。腰痛は正しく原因にアプローチすれば多くの場合、改善が期待できます。どうか焦らず、冷静にご自身の身体と向き合ってください。

また「年齢」「筋力」「診断名」よりも、実は「自分の身体に主体的に向き合う姿勢」こそが大きな結果の差を生むかもしれません。どこへ行くか、どの治療者を選ぶか、そして自分自身がどれだけ取り組むか―そこにこそ鍵があると個人的には考えます。

腰痛で悩んだ末に手術を選ぶ方が、後々「手術なんて必要なかったんだ……」と後悔しなくて済むよう、一人ひとりが正しい情報と行動を選び取れることを願っています。

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