腰痛はメンタルの問題なのか?
これは“部分的に”イエス、と言えます。
脳というのは不思議なもので「痛い、痛い」と思って痛みに集中すればするほど、より痛みを感じやすくなります。(池谷敏郎『腰痛難民 その痛みは、本当にただの腰痛なのか』より)
「だれかと話していると痛くない」
「作業に集中していると平気」
「食事中は気にならない」
「旅行中はなぜか普通に歩けた」
痛みを抱える多くの方が経験するなんとも不思議なこの現象
これは科学的には「楽しいときなどに放出されるドーパミン/セロトニン/ノルアドレナリンが痛みを抑えている」とされています。
そして、これらの神経伝達物質は「ストレスや不安が強いとき」放出されにくくなるともされています。
ストレスや不安が強いとき、痛みを抑える物質の働きは低下し、痛みを必要以上に強く感じるようになったり、長引いたりする(池谷敏郎『腰痛難民 その痛みは、本当にただの腰痛なのか』より)
つまり直接的に痛みと関係ないように思える「社会的ストレス」や「金銭的な不安」が痛みを悪化させる一因になる可能性もあるということです。
もしかしたら仕事をやめる、あるいはお金を稼ぐことで痛みが緩和するかもしれません。
「かがむと痛くなるんじゃないか?」「立ち上がるのが怖い」「朝、起きれるかな」「あのときアレをしたから」「わたしが〇〇だからいけないんだ‥」といった痛みに注目しすぎる/痛みを探しにいく“思考”も腰痛を悪化させる可能性があります。
腰痛や坐骨神経痛が生じているということは、少なからず力学的ストレス(カラダの使い方=姿勢や動作や呼吸などの癖に起因する身体への物理的な負荷)も生じていることでしょう。
けれどそれが全てではなくて、抱えるストレスや不安や職場の人間関係が、その痛みをより強く感じやすくしているかもしれません。
簡易的な問診により疼痛に関わる精神医学的問題を評価する「BS-POP」を用いた研究では、BS-POPの点数が高い(精神医学的問題がある可能性が高い)ほど腰の手術後の予後は不良なので、可能な限り手術は避けるべきと指摘されています。
泣きたくなったり、いつもみじめで気持ちが浮かなかったり、イライラしたりすることと、「腰の手術の治療成績」に何の関係が?と思うかもしれませんし、具体的なメカニズムまでは明らかになっていませんが、結果として「関係はある」のです。
※個人的な経験としてもこの研究結果には納得感があります。BS-POPの点数が高く(概して論理と感情の切り分けが苦手)、かつ、いわゆる完璧主義の方は痛みへのアプローチ自体難航するケースが多いです。
“病んでる”人への手術は(その後の結果が良くないことが多いため)すべきでない、とされるくらいメンタルと痛みは関係が深いという解釈もできます。
痛みはある種“呪い”というか、完璧主義ではなく自分を赦す、あきらめがかえって改善に繋がるとかそういった面もあります。
主観的で個人的で複雑なものだからこそ、付き合うのがむずかしい。それが“痛み”です。
これだけ医療が進歩した現代においても、全員共通の解や万能薬は存在しませんし、基本的に「治療しても治らない」し、腰痛患者は減りません。
だからこそ、ここでお伝えしたいのは、身も蓋も無いですが
「痛みを気にし過ぎない」
「痛みに注目し過ぎない」
「痛みに意味づけしない」
そんなメンタリティが改善への近道になり得る、ということです。
コレは蛇足ですが当院の施術や指導はテクニカルであることよりも対象者にとっての“わかりやすさ”を重視します。なぜなら
痛みと痛み治療の不確実性を受け入れる冷静さも持ちながら、一喜一憂せず淡々と対処し、痛みに立ち向かえる・痛みと付き合える・痛みをコントロールできると本人が思える
「安心を得るための具体的な方法論と実践」としての意味を大切にしているからです。