日々のデスクワークの負担を軽減するべく20万近くする椅子や高級マットレスを導入されている方が居ました。
たしかに、日本人の「座る時間」は世界最長とも言われますし、その方はIT関係の経営者です。仕事場も寝室もそれぞれ人生の3分の1近い時間を過ごす場でしょうから、合理的な投資と言えるかもしれません。
しかし、その方は椅子やデスク周りの環境や寝具を整えるだけでなく、毎日ケアも欠かさないし、毎週ストレッチにも通っているのにもかかわらず、半年に一回、酷いと3か月に1回のペースでぎっくり腰を繰り返していたのです。
万全の体制だったのに何でまた…と仰って言っていました。
腰痛は「長時間のデスクワーク」だけが悪者なのでしょうか。もし、24時間365日、あなたが気づかぬうちに身体を浸食し続ける要因があるとしたら、どう思いますか。
因子にはそれぞれ“距離”がある
慢性腰痛は「デスクワーク中の姿勢が悪い」とか「背筋が弱い」とか単一の原因では説明しきれない複合的な現象です。ですが絡む因子にはそれぞれ“距離”があります。ポジティブな因子にもネガティブな因子にも。
距離―すなわち自分と「その因子」がどれくらい近いか、遠いか。
基本的な考え方として、近い因子から順に手を付けていけば痛みの解決は早く済み、遠くばかり見ているとなかなか先に進めません。
最新のマットレスやオフィスチェア、痛み止めや湿布、コルセットやサプリメント、ピラティスやパーソナルトレーニング、整体やマッサージ院のリラクゼーション…これらは一時的な心地よさや心理的安全性をもたらしてくれるかもしれませんが、あくまでも外的因子。補助輪です。手段であって目的ではありません。そういった意味で自分とは遠いです。
思い出してください。あるいは、直視してください。それを使う時に考えたことを。
ケアもしてトレーニングもして環境も整えていた彼が、なぜ痛みを繰り返していたのか?“近く”が手付かずだったからです。
本丸は、あなたの“最も近く”にあるのは「姿勢」と「呼吸」です。
そして腰痛患者が最初に手を付けるべきは「呼吸」です。
飛び道具に手を出す前に腰痛患者がすべき事
呼吸にフォーカスすべき理由は、物理的に近いから。けれどそれは他にもあります。
たとえば「姿勢」や「体重」。座るだけでなく、立っていても歩いていても、これらはいつだって筋骨格への負荷となり続けます。「食事」や「栄養バランス」も見逃せません。Badsha(2012)の報告はオメガ3脂肪酸をはじめとする抗炎症性の栄養摂取が慢性痛の軽減に寄与することを示唆しています。そして「睡眠」。質の良い眠りは、日中に積み重なった歪みや疲労を解きほぐし、血液の流れを整えます。
これらはすべて自分の話。物理的に近い因子です。しかしながら「猫背を治そう」「痩せよう」「不眠を変えよう」と思っても、中長期的な取り組みが求められます。いざやろうと思っても心理的に“遠いこと”として感じるでしょう。
呼吸は生きている限り繰り返されます。24時間365日あなたに影響を与えることです。そして、意識すれば次の瞬間から変えられます。それもタダで。あらゆる意味で近いです。
だからこそ何より先に、飛び道具に手を出す前に、フォーカスすべき、変えるべきなのです。
呼吸を深め、数を減らし、肩や背中から余分な力みをゆるやかに手放してみる。
それだけで、筋肉や関節への負荷は軽減され、血流や神経の働きも整いやすくなります。さらに、こうした内側からのアプローチは、場所や物に左右されず、日常生活のなかで継続可能です。積み重ねることで身体の心地よさを取り戻し、おだやかなバランスを保つ力が育まれていくのです。
無意識のうちに筋肉を緊張させる悪循環から抜け出す小さいけれど大きな窓口
「呼吸」
呼吸をフックに痛みや体重や体幹筋力、柔軟性、ストレス、栄養、睡眠、知識と向き合う“余裕”を得て、近い所から、可能な範囲から改善へと向かうことで、慢性腰痛は「不可避な苦痛」から「より対処しやすい課題」へと変容する可能性があります。
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