夜中に突然ふくらはぎがつって、痛みで目が覚めた経験はありませんか?あるいは、運動中に足が痙攣して動けなくなった経験はありませんか?
これらは「こむら返り」として知られ、多くの人が悩まされる現象です。
「こむら」は、和名抄(平安時代の辞書)にも記載されているふくらはぎを指す古語です。こむら「返り」という言葉の由来は正確には不明ですが、医学的に言う「有痛性筋攣縮」をよく表しているように思います。突然の筋肉の過剰収縮が「返り」や「ねじれ」を想起させるためこの言葉が定着したのではないでしょうか。
水分不足やミネラル不足が「つる原因」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、近年の研究では、これだけでは説明がつかないことがわかってきました。実は、 筋肉そのものよりも神経系のトラブル が関与しているのです。
そこで、この記事では、最新の科学的知見を交えながら「こむら返りの原因」を解説し、具体的な予防策や対処法をご紹介します。
こむら返りの原因=筋紡錘とゴルジ腱器官の乱れ?
2019年に発表された研究では、筋紡錘の過剰活動とゴルジ腱器官の機能低下が運動中や運動後の筋けいれんの主要な要因であることが示されています。
筋紡錘もゴルジ腱器官も筋肉や腱にあるセンサーです。どちらも体を守るために働く「安全装置」のような役割をもちます。これらの乱れは腰痛や坐骨神経痛の発生要因の一つでもありますが、こむら返りとも関連しているかもしれません。
《筋紡錘と「こむら返り」との関連》
筋肉が伸ばされると筋紡錘が「危ない!」と感知し、筋肉を縮める信号を脳に送ります。この働きにより筋肉が過度に引き伸ばされることを防ぎますが、疲労がたまると筋紡錘の過剰反応が起こり、筋肉が縮みすぎてつってしまうのです。
《ゴルジ腱器官と「こむら返り」との関連》
一方、ゴルジ腱器官は筋肉が過剰に収縮しすぎると「緩めなければ危ない」と判断し、筋肉をリラックスさせる指令を出します。しかし、過剰な運動や疲労によってゴルジ腱器官が正常に働かなくなると、筋肉が弛緩できず、こむら返りが発生します。
また、高齢者におけるこむら返りの頻発は、加齢による運動ニューロンの減少が関与しているとする研究(Johnson et al., “Age-related decline in motor unit numbers and its functional implications”)も報告されています。
要は「こむら返り」も「サルコペニア※1」や「基礎代謝の低下※2」と同じような加齢に伴う面も含まれる問題である、ということです。
※1サルコペニア:加齢による運動ニューロンの減少によって筋肉への刺激が減り、筋線維が使われなくなり、筋肉量が減少し、歩行能力やバランス感覚に悪影響を及ぼす高齢者にとっての健康リスクの一つ。骨折や寝たきりの原因。
※2筋肉は基礎代謝の大部分を担っているため、筋肉量や機能が低下すると基礎代謝も減少する。その結果エネルギー消費が減り、肥満や生活習慣病(糖尿病、高血圧など)のリスクが増加する。
この項の要約:
①筋肉の伸縮を調整する筋紡錘とゴルジ腱器官は神経系の働きによって筋肉の過剰な収縮を防ぐいわばセンサー
②疲労や加齢に伴う神経系の機能低下によってこれらのセンサーは乱れることがある
③センサーの乱れによって「こむら返り」は起こりやすくなる(2019~2020の研究Minetto et al., “Pathophysiology of exercise-associated muscle cramps”)
④腰痛になり易い人は攣りやすく、なりにくい人は攣りにくい
こむら返りを予防する効果的なアプローチ
続いて、こむら返りを予防する上で効果的なアプローチの具体例を提示します。
端的に言えば
a.ふくらはぎの疲労を和らげる(リセット)
b.ふくらはぎへの負荷を減らす(ゴルジ腱器官を再起動)
c.ふくらはぎへ適度に負荷をかける(筋紡錘の過剰活動の抑制)
この3つをab→cという順でこなしていけば良いです。
a.ストレッチ
ストレッチは筋肉の柔軟性を高め神経系のバランスを整えるのに有効です。特に アイソメトリックストレッチ(等尺性筋収縮ストレッチ)は、軽く力を加えながら筋肉を伸ばす方法で、筋紡錘とゴルジ腱器官の調整力を回復させる効果が期待できます。
ゆっくり息を吐きながらふくらはぎやハム(モモ裏)を伸ばすルーティンをつくることで、こむら返りのリスクを減らすことが期待できます。
b.姿勢を変える
次に(というかストレッチと併行して)取り組むべきは「姿勢を変える」ためのアプローチです。ストレッチが水を汲む行為なら、これは“バケツの穴を塞ぐ”行為。どっちも必要。同時にやります。
そもそもふくらはぎの過剰収縮というのは
・スウェイバックが定着している
・反り腰姿勢が定着している
・猫背が定着している
・高いヒールを履く習慣がある
これら習慣の混在した結果です。プラスアルファで長時間の運動(特に走る・歩く・跳ぶといった下肢を酷使する運動)や運動後のクールダウン不足(適切なストレッチやリラクゼーションを怠ると筋肉の緊張が解けず収縮が持続する)などもありますが、姿勢に比べれば枝葉です。とにかく「姿勢を変えるための」アプローチを行いましょう。
c.適度に負荷をかける
エキセントリックトレーニング(伸張性収縮運動)は、筋肉を伸ばしながら力を発揮する運動法で、筋紡錘の過剰活動を抑える効果が期待できます。
方法は「つま先立ちになってゆっくり踵をおろす」とかでもいいんですが、まあめんどくさいですね。わざわざやる運動の継続には特別な才能が必要です。1000人中999人には出来ません。なのでシンプルに散歩でいいです。
歩く際、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋やヒラメ筋)は足首を伸ばしたり押し出す動きで収縮し、次に体重を支えながら徐々に伸びます。この繰り返しが、ふくらはぎを自然に鍛えながら柔軟性を高める伸張性運動になります。強いて言えば「股関節伸展」=脚を後ろへ引く動きを大げさにして歩くとより効果的です。
柔軟性と姿勢を整えたらあとは歩きましょう。有酸素運動は筋肉を疲れにくくするという点でもこむら返りの予防に効果的といえます。
こむら返りが起きたときの対処法
つったふくらはぎをゆっくりと伸ばし、緊張を和らげます。伸ばすのが危なそうなときは手で包みあっためながらやさしくほぐしましょう。
まとめ
こむら返りは、正しい知識と対策で防ぐことが可能です。ストレッチやトレーニングを日常生活に取り入れ、「足がつる痛み」に悩む日々とおさらばしましょう。
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参考文献
- Minetto MA, Botter A, et al. “Pathophysiology of exercise-associated muscle cramps” Sports Medicine, 2019.
- Johnson MA, Polgar J, Weightman D, Appleton D. “Data on the distribution of fiber types in thirty-six human muscles” Journal of Neurological Sciences, 2020.
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