あなたの肩の上の重さ。腕にへばりつく諦めのようなダルさ。そして、いつの間にか浅くなった呼吸。
それらは、あまりに単純な身体操作のミスから生まれている。
多くの人は、無意識のうちに「親指側」で物を扱う。
フライパンや、満員電車のつり革、傘やバッグを握る時、常に親指が過剰に機能し、その連鎖は肩をすくめ、腹部との連動を困難にする。
土台との接続を失った「根なし草」のような上肢で繰り返される日常動作は、三角筋や僧帽筋上部線維の代償的過緊張につながり、惹起された「肩で吸う癖」と相まって、ガチガチな“こり”を生む原因となる。
より洗練された「手の使い方」
それは、小指と薬指側を意識的に使う、極めてシンプルな作法である。
西洋東洋さまざまな本を読んでも、空手家や料理人やプロゴルファーと話しても、共通する見解「小指で握る」
この些細な意識のシフトが、驚くほど効率的な連動を引き起こす。
肩甲骨はしっかりと胸郭上に安定し、腹部は自然な緊張を取り戻し、腕は体幹という強固な根っこを取り戻す。
結果、あなたは初めて、「お腹で腕を動かす」という感覚を知る。それは、体幹と腕が、極めて精度の高いケーブルで接続されたかのような感覚である。
またこうして得られる体幹の安定は、呼吸の深さを回復させる。深い腹式呼吸は、不要な肩の緊張を解き放ち、長年の肩こりや腰痛という名の負債をも清算していく。
この身体の真理は、かつて宮本武蔵が見抜いていた事実と重なる。
彼の『五輪書』には、太刀の持ち方についてこう記されている。
太刀の持ち方は親指と人差し指を若干浮かせ、中指は締めすぎず緩めすぎず、薬指と小指を締める心を持つとよい。掌に緩みがあるのは悪い。―現代語訳五輪書水の巻(現代語訳文庫)
武蔵は、刀を振るうという究極の行為を通じて、手と体幹の接続方法を学んでいた。
我々が現代で求められるのは刀を握る強さではない。だが、「身体の連動性」が、余計な緊張や痛みを防ぐ上できわめて重要であることは変わらない。
あなたの不調は、単なる疲労ではなく、「身体が連動性を失っている」ことへの警告である。
そしてその解決策は、あなたの「身体の扱い方」に隠れている。




