こんにちは!
今回は「首のカーブが失われ、頭が前に突き出た状態」―いわゆる ストレートネック(Forward Head Posture; FHP) を修正するための順序や具体的エクササイズについて解説します。
ストレートネックとは
頸椎は7個の椎骨がなだらかなS字を描くのが正常ですが、ストレートネック(Forward Head Posture; FHP) ではそのカーブが失われ、頭部が体幹より前方へ突出します。
それの何が問題か?というのは次項で詳しく触れますが、要は体への負担が大きくなるのです。あとは美容面でも気にされる方が多くいます。
少し科学的な話をすると、正常時(前傾0°)の頸椎にかかる荷重は、頭部重量相当の平均約4〜6 kg(体重の約10%)ですが、60°前傾すると約24〜36 kgに達し 約6倍 に増加することが報告されています [1] (pingeprii.ee)。
なぜ問題か(臨床的意義)
- FHP は頸部痛・障害の独立リスク因子であり [2] (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)、スマートフォン使用時間が4 h/日を超えると疼痛と頸筋持久力低下が有意に増す [3] (nature.com)。
- 頭部前方移動に伴い、上位頸椎は過伸展、下位頸椎〜上位胸椎は過屈曲となり、筋の短縮/抑制パターン(いわゆる“上位交差症候群Upper‑Crossed Syndrome”)が生じる [4] (physio-pedia.com)。
体の痛み 首こり・肩こり・腰痛など
姿勢崩れ 猫背・反り腰・スウェイバックなど
脊椎疾患 頚椎及び腰椎ヘルニアなど
その他 顎のたるみ・顔のむくみ・首肩の盛り上がり・浅い口呼吸など
痛みや見た目的な問題を防ぐ、あるいは快適な日常を送る上で、ストレートネック改善に取り組む意義は大いにあると言えるのではないでしょうか。
姿勢連鎖の概要
部位 | 典型的変化 | 主に短縮する筋 | 主に抑制される筋 |
---|---|---|---|
上位頸椎 | 過伸展 | 後頭下筋群 | 頸前筋群 |
下位頸椎〜上位胸椎 | 過屈曲 | 肩甲挙筋・僧帽筋上部線維 | 僧帽筋中・下部線維 |
肋骨上部 | 前方回旋 | 大胸筋・小胸筋 | 前鋸筋 |
肋骨下部 | 開大(リブフレア) | 広背筋 | 腹筋群 |
肩甲骨 | 挙上+外転+下方回旋 | 小胸筋・肩甲挙筋 | 前鋸筋・僧帽筋下部 |
鎖骨 | 挙上+前突+前方回旋 | 同上 | 僧帽筋中部 |
改善の優先順位
- 胸郭・肋骨・胸椎:呼吸再教育とリブフレア改善が先決です。肋骨の出っ張り(常態化した下位肋骨の外旋位)から修正します。
- 肩甲帯:肩甲骨の下制+上方回旋を促す(壁を利用したストレッチなどで小胸筋を緩めてから、僧帽筋中・下部線維/前鋸筋の活性を図る)。
- 頸部:チンインなどで頸前筋群を再教育。頭の位置の修正は最後、というのがポイント。
ポイントは「土台から整える」ということです。いきなり頭の位置を変えようとしても、肩がすくんだままでは難しく、多くの場合、腰を反らすことになります。胸椎も起きてきません。
そこでまずは「胸郭」から、具体的には「お腹の筋肉の働きを高める」類のプログラムから行っていきましょう。
胸郭▶︎肩甲骨▶︎頭部の順番でアプローチを組み立てることが、ストレートネックや猫背や巻き肩、それらに伴う呼吸苦などを修正する上で重要になります。
このステップは、僕の経験と、あるRCTの報告(肩甲骨安定化トレーニングを姿勢矯正エクササイズに追加すると10 週間で頭頸部角が有意に改善し、疼痛と障害が低減した)をミックスしたものです[5] (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)。
代表的エクササイズと目的
エクササイズ | 目的 | ポイント |
胸郭リセット(正座/四つ這い肘プッシュ) | 下位肋骨を締め前鋸筋を賦活 | 肩をすくめず背中を軽く丸めて呼気を重視 |
座位トライセプスプッシュ | 肩甲骨下制と鎖骨後傾 | 手を体側後方に置き床を押す/頸を長く保つ |
リング/タオルリーチ | 前鋸筋+僧帽筋下部活性で頭部前方スライド抑制 | 肩甲骨を外転させ過ぎず肩を下げたままリーチ |
肘フレクション with スキャプラセット | 背部筋活性・胸開き維持 | 肘を閉じ肩をすくめず屈伸反復 |
小さなうなずき(頷き運動) | 上位頸椎屈曲/頸前筋活性 | 肩甲帯をセットした状態で頭をスライドさせない |
こういった内容を含む多角的運動介入が FHP・巻き肩・胸椎後弯角を総合的に改善すると結論づけられています [6] (bmcmusculoskeletdisord.biomedcentral.com)。
日常環境の調整
- デバイス位置:画面を目線の高さに。目線が下がるほど頸椎荷重が増加 [1]。
- スクリーンタイム管理:4 h/日超えは頸筋持久力低下と疼痛悪化の閾値 [3]。
- 休息ルール:60 分ごとに肩甲帯プッシュ動作(など腹部を賦活するエクササイズや意識)と深呼吸(頚部筋群は極力用いずに、背部を拡張する)を行う。
まとめ
ストレートネックは頸椎単独の問題ではなく、胸郭・肩甲帯・頸部が連鎖した運動/姿勢パターンであることを抑えましょう。頭だけの問題ではないです。胸郭→肩甲帯→頸部の順で整え、短縮筋のストレッチと弱化筋の活性を同時に進めることで、疼痛軽減と機能改善が期待できます。エクササイズ実践と作業環境の見直しを両輪で進めましょう!
参考文献(主要エビデンス)
- Hansraj KK. Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head. Surg Technol Int. 2014. (pingeprii.ee)
- Yang S et al. Treatment of chronic neck pain in patients with forward head posture: a systematic narrative review. Healthcare 11(19):2604, 2023. (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- Elvan A et al. The association between mobile phone usage duration, neck muscle endurance, and neck pain among university students. Sci Rep 14:20116, 2024. (nature.com)
- Physiopedia. Upper‑Crossed Syndrome. Accessed 2025. (physio-pedia.com)
- Abd El‑Azeim AS et al. Impact of adding scapular stabilization to postural correctional exercises on symptomatic forward head posture: a randomized controlled trial. Eur J Phys Rehabil Med 58(5):757‑766, 2022. (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
- Lee J et al. Effect of therapeutic exercises on forward head posture: systematic review and meta‑analysis. BMC Musculoskelet Disord 24:7224, 2023. (bmcmusculoskeletdisord.biomedcentral.com)
- Piruta J et al. Physiotherapy in Text Neck Syndrome: A Scoping Review. J Clin Med 14(4):1386, 2025. (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)


