コロナ後遺症と自律神経の関係について、自身の経験と最新の研究を踏まえながら

腰痛

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。その嵐が過ぎ去った後にも残る影響を私たちはどう受け止めればいいのでしょうか。COVID-19罹患後にしばしばみられる“後遺症”は、おもに筋骨格系・内臓系・精神心理系・神経系症状が複雑に絡み合っています。ですが現状、有効な治療法は確立されておらず、いまだに多くの人々を苦しめています。

個人的な体験として、コロナ禍において後遺症を疑われる方々と接する機会がありました。今回は、その時に感じた事と、最新の研究(2024年12月時点)で明らかになった事を交えつつ、後遺症回復への道筋について考察していきます。

新型コロナウイルス感染症(COV ID-1 9)の罹患後症状について(現状、研究報告、今後の厚生労働省の対応)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001146453.pdfより

・オランダの検討では対象と比較して COVID-19陽性者の12.7%に90~150日後に COVID-19によると考えられる持続症状を有していたと報告されている。
・イギリスの研究では12週後に62種類の症状が LongCOVID と関連していたと報告され,最も一般的な症状は倦怠感,息切れ,筋肉痛,関節痛,頭痛,咳,胸の痛み,嗅覚・味覚の障害,下痢など多彩でありその他,ハザード比が高かったものとして脱毛,くしゃみ,射精困難,性欲低下,疲労,嗄声などが報告されている。
・わが国では入院歴のある患者で診断ヵ月,6ヵ月,12ヵ月後に追跡調査が実施され,12ヵ月後でも全体の30%に罹患後症状がみとめられ,頻度としては倦怠感,呼吸困難,筋力低下,集中力低下,睡眠障害などが高くみられた。いずれの症状に関しても時間とともに有症状者の頻度が低下する傾向がみられた。また,酸素需要のあった重症度の高い患者は,6,12ヵ月後のいずれの時点でも罹患後症状の頻度が高かったと報告されている。

全国にまたがる徳州会メディカルデータベースの電子カルテ情報を活用し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症について、0~85 歳を対象とし、12 万症例という規模では国内初となる大規模調査が実現しました。(中略)10 万人を超える全国規模での幅広い年齢層にまたがる COVID-19 後遺症の調査研究は国内初のものです。
(以下抜粋)
・頭痛、倦怠感、味覚・嗅覚障害といった後遺症は急性期からみられ、その約1割が長期化する一方、うつや廃用症候群といった症状は、特に高齢者層で約 2 割から5割と高率に長期化する傾向を認めました。
・特に、うつや廃用症候群の発症率は、60 歳以上の高齢者で有意に高いことが分かりました。
・60 歳以上の高齢者では、COVID-19 発症後に要介護度が上がる傾向が見られ、ほぼ寝たきりに近い要介護度 4 及び 5 の患者が増加する傾向のあることが分かりました。-COVID-19 後遺症について12万症例を超す日本初の大規模データ解析を実施~電子カルテ情報を用いた日本国内における COVID-19 後遺症の年齢やワクチン接種率による発症傾向を解明(https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/files/15de3d9b4ce40d6a1e320a0606c5e2ae18105c03.pdf)より

コロナ後遺症疑いのある方々の共通点

まず、当院は痛みとしびれの専門院なので、来られた方々は「腰痛」「しびれ(手足など)」を主訴としており、加えて「倦怠感」「過敏性腸症候群」、中には↓のような形で「後遺症かもしれない」という方がいました。

コロナ後遺症疑いのある方々は共通して「浅く頻回な胸式呼吸」をしていたことと「肋骨・胸骨周りが硬い(触知した感覚としても関節可動域としても)」ことが印象的でした。

胸式呼吸は交感神経を刺激する「戦闘モードの呼吸」ですが、癖として常時行う事で緊張状態を招くほか、酸素供給の低下や胸郭・肩周りの緊張、横隔膜の使用不足によって疲労感や集中力の低下息苦しさなどの症状を悪化させる可能性があります。

この事を知識としてお伝えした上で、いくつかの呼吸ケアや関節可動を促すエクササイズを行う中でいずれの対象者も症状の軽快を感じて頂けました

コロナ後遺症と副腎皮質ホルモンのサイクル異常について

副腎皮質ホルモンの一つである「コルチゾール」は、ストレスホルモンとして知られています。夜は分泌を控え、朝は目覚めとともに我々の活動を後押しするホルモンです。体内のストレス応答、代謝、血圧、電解質バランスなど、多岐にわたる生理機能を調整する重要なホルモン群であり、その適切なバランスが健康の鍵とされています。

しかし、新型コロナウイルス感染症により、コルチゾールの日内リズムが乱れることが報告されています。

具体的には、まず急性感染期において、体の過剰な炎症を鎮めるためにコルチゾールが過剰分泌される場合があり、これが免疫機能の低下、血圧上昇、血糖値の乱れ、筋力の低下、不安感や抑うつなどに繋がり得ます。そしてこの状態が慢性化すれば、ストレス適応や代謝、炎症抑制などに重要な役割を果たすホルモンシグナルネットワークの基幹システムともいえる「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)」の疲弊を招くリスクも高まります。

厄介なのはこの機序により、感染から回復した後、今度はコルチゾール分泌が低迷する場合もある事です。コルチゾール分泌の低下も慢性的な疲労感や免疫機能の低下、不安感やストレス耐性の低下、低血圧や循環不全、さらには睡眠障害を引き起こし、身体的・精神的な健康に幅広い悪影響を及ぼすと言われています。

こういった副腎皮質ホルモンサイクルの乱れが、慢性的な疲労感や集中力の低下、不眠といったコロナ後遺症状の影に潜む可能性が現在指摘されています。

交感神経優位とコロナ後遺症のつながり

先述の通り、感染後の体はしばしば交感神経のアクセルが踏みっぱなしになることがあります。その結果として、慢性的な疲労感や動悸、心拍数の増加、さらには不安感や集中力の低下といった症状が現れる面もあるのでしょう。

心のざわめきが止まらず目の前のことに集中できなくなる状況や、夜になっても体がリラックスせず、眠りの扉が遠ざかる不眠症も、典型的な「交感神経優位症状」です。

過敏性腸症候群(IBS: Irritable Bowel Syndrome)も、交感神経優位がその症状に関与する可能性が高いと考えられています(IBSは消化管の運動機能や感覚過敏が異常を示す疾患であり、腸と脳が密接に関連する「腸脳相関」の影響を強く受けるとも言われている)

コロナ後遺症の背後には「交感神経が過剰に優位な状態」が、更にその背後には身体的ストレスや心理的ストレス、ホルモン分泌を調整するHPA軸の不調、さらには慢性的な炎症といったさまざまな要因が潜んでいる

これが今日までの様々な研究と個人的な経験を踏まえた現時点での仮説です。次項で仮説を強固にする最新の研究について触れます。

認知行動療法(CBT)の光明と回復への道筋

カナダのMcMaster大学のレビュー(2024年)によれば、薬物療法には未だ確固たるエビデンスが不足している一方、認知行動療法(CBT)や運動を組み合わせたメンタルヘルスリハビリテーションが、COVID-19後遺症の治療において有望であるとされています。

認知行動療法は臨床において心理的ストレスを和らげるだけでなく、自律神経のバランスを取り戻す手助けとしても、しばしば用いられている方法です。コロナ後遺症の文脈に当てはめると、基本的な方向性としては「交感神経の暴走を抑え、副交感神経を活性化させる」ことで心身の緊張を緩和を目指すのがセオリーとなるのではないでしょうか。

内容としては「思考の再構築」を中心に「活動と休息のバランス調整(ペーシング)」「睡眠改善」「呼吸法の指導」などです。

具体的な方法は「自分はこの症状のせいで何もできない」などの否定的な考え方を記録しカウンセラーともにそれを再評価したり、瞑想やリラクゼーション法による交感神経の鎮静化、活動量を無理のない範囲で調整する計画作成、睡眠衛生を改善するアプローチ、腹式呼吸を取り入れた自律神経の安定化など

これらのアプローチは後遺症やそれに付随する抑うつや不安感の軽減、ホルモンバランスの日内リズムの正常化、体と心を再び調和へと導く可能性を示唆しています。

手軽に取り組めるアプローチ

今日から手軽に取り組める方法をいくつか挙げます。

まずは「呼吸」です。

現代社会の罠から脳と神経を守るには
人類史の99.8%を占める狩猟採取時代と、私たちが生きる現代社会。その間に起きた急激な生活環境の変化は、脳の働きや自律神経に大きな影響を与えてきました。 自然の静けさから情報洪水へ:人類の脳に起きたこと たとえば、狩猟採取時代には、...

腹式呼吸を意図的に行うことで、副交感神経の活動を高めることができます。可能な範囲での「軽いストレッチ」や「散歩」もしつつ、睡眠改善のために夕方以降はスマホの光や白い部屋の光を避ける(Night Shiftや間接照明の活用)、なるべく同じ時間に寝起きする。こういったことで、体内時計や自律神経の安定化を図ります。

あと今日M-1を観ていたのですが、よく笑うことも良いはずです。

笑いは交感神経の過剰な活性を抑え副交感神経を優位にすることでストレスを軽減させる、免疫細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞の活性を高めて免疫力を向上させる、エンドルフィンの分泌による鎮痛効果、気分を明るくして不安や抑うつを軽減させる、などの作用が科学的に示されています。

コロナ後遺症はCBTや生活習慣の見直しを通じて自律神経を整えることが、回復への道となるかも知れない―これが2024年12月現在の暫定的な解となっているようなので、できることを淡々とやっていきましょう。

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